外国人旅行客が日本に来る「インバウンド」という言葉が注目されるようになってから久しいが、いち早く外国人観光客の取り込みに成功している温泉地がある。
「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で二つ星として掲載されたことから注目を集めた城崎温泉(兵庫県豊岡市)だ。温泉地で外国人観光客の姿を見ることは珍しくないが、城崎温泉ではその姿が、違和感なく歴史ある街並みに溶け込んでいる。
3月上旬、現地を訪れた本誌記者はまず、まだ雪の残る中、日帰り温泉施設で誰でも入れる外湯を目指した。
たどり着いたのは、地蔵湯という外湯。湯温が高く、さっきまでの寒さが嘘のように体がほぐれる。フランス人親子が顔を真っ赤にしてお湯に浸かっていた。
「フランスで新聞を読んでいたら、ここが紹介されていたので、来ることに決めました。熱かったですけど、ナイスな温泉です」
別の男性は、デンマークから来たという23才。インターネットで、温泉のある小さくて景色のいい街を探してここへたどり着いたという。街のあちこちで無料Wi-Fiが使えるのも、彼のような若者には便利なようだ。
外へ出ると、昔ながらの建物が多く、高層ビルがないのも趣がある。その前を、浴衣姿の女性たちが歩いて行く。どの案内板にも、日本語に英語が併記されているのみで、中国語や韓国語など、他言語の案内はない。城崎温泉のある兵庫県豊岡市の環境経済部大交流課の谷口雄彦課長が話す。
「城崎では、日本語やたどたどしい英語でのコミュニケーションが楽しみと言ってくれる外国人観光客も多いので、日本語か英語で対応するようにしています。外国人にわかりやすくしすぎて、風情が損なわれないようにという考えです。無料Wi-Fiを整備しているのは、SNSで、すぐに城崎の美しさを共有してもらいたいからです」
高崎経済大学地域政策学部准教授の井門隆夫さんは、城崎の魅力をこう補足する。
「外湯が点在しているため、温泉街を回遊させるという、温泉全体を共有する文化ができあがっているのです」
城崎を訪れる外国人観光客は、この5年で40倍にもなっているという。所変わって静岡・熱海でも、3年連続で市内宿泊客数が300万人を超え、温泉地の底力を見せている。熱海観光課の担当者が話す。
「2カ月に1度開催されるクラフト&ファーマーズマーケットでは熱海銀座を歩行者天国にして周辺在住の作家の作品や農家の野菜を販売。6000人が訪れる熱海の新名物となっています。多言語のパンフレットを用意したり、海外にCM広告を出したりという取り組みも行っています」
ほかにも、注目の温泉地は多い。
「たとえば秋田では、県と金融機関がタッグを組んで秘湯を売り出しています。日景温泉ではアンテナショップを設置して、県産品を販売するなど戦略的です。人気のある有名温泉地だけではなく、地方の小さな温泉にこそ、日本の温泉らしさが残っていることに観光客も気づき始めているのです」(前出・井門さん)
外国人観光客の増加にともない、トラブルが生じることもあるが、寛容な心で各地は受け入れている。NPO法人別府八湯温泉道名人会の佐藤正敏理事長が語る。
「湯船の中で髪を洗ったり、タオルを入れてしまったり。でも、こちらとしては、外国人にも温泉を楽しんでもらいたい。最近は注意書きを整備していますし、マナーを調べてくる外国人も多いので、大きなトラブルは減ってきました」
各地の名湯の頑張りで、温泉大国ニッポンが世界に名乗りを上げている。
出典:女性セブン
https://www.news-postseven.com/archives/20180325_661258.html
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