従業員の作業量を30%減らした、旅館業のIT化戦略~道後プリンスホテル
日本三古湯のひとつといわれる道後温泉。その中でも最大規模の客室を誇る道後プリンスホテルは、年間約10万人が訪れます。
コロナ禍に直面する中、働き手不足の解消と効率化を目指して、業務の端々にITを導入。不要な手間が省けて、経理や調理場の労働時間を30%削減できたそうです。取締役副社長の佐渡祐収氏を中心に、IT化の取り組み方を伺いました。
インバウンド対応の強化中にコロナ禍が直面
【Q】コロナ禍の影響はいかがでしょうか?
当旅館は123室あり、道後温泉エリアの中では最大の客室です。道後温泉全体の特徴として、インバウンドのお客様は全体の3~5%と少なめでした。これからは海外のお客様へのアピールが必要でいろいろ戦略を練っていたところに、コロナ禍が来てしまいました。
客室の稼働率は2020年2月まで約70%だったのが、一気にゼロになりました。その後はGoToトラベルで予約数が前年比100%を超えたこともありましたが、最初の緊急事態宣言が発令されてから15ヶ月間で、通算1年間は休んでいる計算です。
まさに休館とともに過ごしてきたような感覚で、大変な中ではありますが、お客様に安心してお越しいただくという基本方針は変わりません。
休館中は大浴場を集中工事して、2020年7月にリニューアルしました。洗い場のカランに塀を設置したり、脱衣所のロッカーを間引きして広くしたりしたことで、「大浴場が個室のように使えて、他の方との距離が保てる」と好評です。(取締役副社長 佐渡祐収氏 以下、佐渡副社長)
2年半かけて徐々にIT化を推進
【Q】ほかにコロナ禍で取り組んだことはありますか?
少しずつですが、業務をIT化しています。実は、2年半ほど前に当旅館に入社したときから、IT化の遅れを目の当たりにしました。私は前職が公認会計士で、20年にわたり何百とある会社を内部から見てきましたが、旅館業はまさにアナログの世界でした。調理場からメイドさんの業務まで、すべてが紙や電話のやりとりで、ITの「あ」の字もありません。昔ながらの「がんばれば何とかなる」という根性論が根付いていたのです。
これからは少子高齢化で働き手が少なくなる中、若手が1~2年で退職している状況です。だからこそ、定着率の改善と同時に、機械に任せられるものは機械に任せ、人は人にしかできない仕事をしていかないと、おもてなしの精度が下がると考えました。(佐渡副社長)
【Q】旅館業の人材不足対策に、IT化は必要とのお考えなのですね。
ただ抜本的に変えてしまうと、「ITはロボットだ、旅館業には似つかわしくない」という反発もありますから、少しずつ進めました。まず取り組んだのは、フロントと清掃係の連携です。
それまでチェックアウト時のフロントは、ただでさえお客様対応で忙しいのに、清掃係からの「部屋に入っていいか」という確認の電話がひっきりなしにかかる状態でした。それを見て「これは電話でやる必要あるの?」と思い、インターネットでチェックアウトを確認できるシートを作成し、フロントが鍵を預かった際にチェックを入れると、すぐさま清掃係のタブレットに反映される仕組みを構築しました。その結果、電話での確認が激減しました。これぞまさに業務を機械に任せることだという実感が、現場にも徐々に浸透していったのです。
次に着手したのは、客室レストランのオーダーシステムです。それまではお客様からのオーダーをメイドさんが紙伝票に書き、会計係が夜通しパソコンに手入力していたのですが、これもiPodでオーダーが入力されると同時に会計システムに反映される仕組みに変えました。(佐渡副社長)
仕入れのシステム化で経理処理が5日間削減
【Q】徐々にIT化を進めていったのですね。
はい。その後、調理場の仕入れ方法をIT化したいと思い『BtoBプラットフォーム受発注』を導入しました。電話やFAXは誤送信や発注ミス、内部統制の課題もあり、システム化して第三者のチェック体制を整えれば内部統制も強化できるとの思いもありました。仕入れや経理業務の効率化とあわせて一石二鳥ということで、役員を説得して導入したのです。(佐渡副社長)
当社に来ていた伝票はほとんどが手書きだったので、計算ミスに単価ミス、伝票のダブリ、他社の伝票が混ざることが毎月何件かあり、全社の伝票を見るだけで3日もかかっていました。
受発注システムを導入したことで、月次の請求書の照らし合わせがパソコンひとつでできるようになり、業務時間が丸5日は削減されたのです。
特に旅館業は日々突発的なアクシデントが多く、雑用に追われているうちに事務仕事が後回しになり、残業するという悪循環に陥りがちです。ITを導入したことで、現場に余裕が生まれました。最初の準備こそ大変でしたが、今ではよかったと思います。(経理担当 武智香氏)
在庫管理もIT化で一目瞭然
【Q】調理場では業務が改善されましたか?
若手社員がシステム画面で仕入れ操作をしてくれるので助かります。確実に証拠が残るので、「言った言わない」のトラブルもなくなりました。
料理の道に入って40年ですが、時代についていくのは必要ですね。慣れればなんとかなるものです。(料理長 神谷光秀氏 以下、神谷料理長)
調理場の若手にとっては、受発注業務をすること自体が勉強になっています。「この人数でこれだけの数量を仕入れているのか」「こういうものを仕入れているのだな」など、見える化にはメリットが多いと感じています。(佐渡副社長)
今では、エクセルに期間と金額などを入力すれば原価が出せるようにしています。通常の仕事量が30%ほど削減できて、料理長はその分料理に邁進できるようになりました。(佐渡副社長)
愛媛の食材を使った美味しい料理を提供するのが、自分の使命ですから。 (神谷料理長)
【Q】6月からHACCP制度が義務化されましたが、どのような対応をされていますか。
保健所で手引書を出している書類を買って対応しているのですが、やはり大変ですね。調理場の健康管理や、搬入の良し悪し、その解決をどのようにしたかなどを全部チェックして、残しておかなければなりません。仕事以外の業務が増えました。将来的にはこうした業務もIT化できるといいですね。(神谷料理長)
小規模の団体客をターゲットに、バス事業も展開
【Q】今後の展望をお聞かせください。
コロナ禍で団体旅行は減りましたが、8~10人程度の小規模ツアーはまだまだ需要があります。そうしたお客様を集客するため、バス事業を展開します。
愛媛には宇和島や別子銅山など、魅力的な観光コンテンツがたくさんあります。しかし、それらを結ぶ交通機関が乏しいのが現状です。
各地をバスで周遊していただき、また道後エリアへ戻ってきて延泊していただく。旅行業とツアーコンダクターのようなバス事業の両輪を取り組んでいきます。
出典:フーズチャンネル
https://www.foods-ch.com/gaishoku/1628846642905/