地方創生への寄与に期待かかる訪日クルーズ船&旅客

2018年に日本を訪れた外国人観光客は、前年と比べ8.7%多い3.119万2千人(推計値)で過去最多となり、2013年から6年連続で最多を更新しました。要因としては、訪日ビザの発給要件の緩和や消費税の免除制度の拡充などの取り組みが成果となって表れたともいえますが、今回は急増しているクルーズ船によるインバウンドの現状と課題から今後の地域活性化について考えてみたいと思います。

◆◆2017年クルーズ船寄港回数2,764回、旅客数253万人◆◆

私が毎年のように訪れている長崎の街では、アジアのクルーズ市場の急成長を背景に常に大型クルーズ船が寄港し、市街地では中国人等アジア系の観光客の姿を多く目にします。一度に多くの観光客が訪れ、観光などを楽しむとともに地域での消費が生まれ、地域住民との交流が図られれば、地方創生にも寄与することになりますが、必ずしも経済効果を高めたい地元とグルメやショッピングを楽しみたい観光客の双方のニーズを満たしているとはいえないようです。

昨今、クルーズ船を利用する訪日外国人観光客が急増しており、2017年(1月~12月)の旅客数は前年比27%増の252.9万人、寄港回数は前年比37%増の2,764回となり、いずれも過去最高を記録しています。この5年間で実に約15倍の規模となっています。2018年も11月までにクルーズ旅客数は232.8万人に達しており、2017年と同様、あるいは上回る可能性があるほか、寄港回数に至っては、既に2,779回と過去最多を更新しています。

2017年におけるクルーズ船の我が国港湾への寄港回数は、前年比37%増となる2,764回(外国船社2,013回、日本船社751回)で過去最高でした。全国130の港湾にクルーズ船が寄港していますが、港湾別では1位が博多港の326回(前年328回)、2位の長崎港で267回(前年197回)、3位の那覇港で224回(前年193回)と西日本、それも九州・沖縄の3港で約3割を占めており、同地域へのクルーズ船の寄港が多いことが分かります。

また、外国船社が運航するクルーズ船の寄港回数は中国からの寄港増加がありますが、国籍別では中国や台湾を中心とした日本に近接する東アジア諸国が大部分を占めています。これは、旅行日数が1週間(4~5泊程度)にも満たない中国発着の短期な上に安価なショートクルーズで、地理的にも近い九州や沖縄の港湾が寄港回数の上位を占めていることからもうかがえます。

1月16日に日本政府観光局から発表された「訪日外客数」では、欧米豪市場においてもクルーズ船需要が好調とされています。アメリカについては、クルーズ会社と連携して販売促進セミナーを実施した効果により訪日クルーズ需要も着実に増加し、訪日旅行者数の増加を下支えしているといいますし、イタリアもクルーズ会社と共同プロモーションを実施し、クルーズ需要の取り込みを図っています。

◆◆訪日クルーズ旅客500万人に向け補助制度や拠点形成◆◆

我が国では、2016年の「明日の日本を支える観光ビジョン」で、「クルーズ船受入の更なる拡充」を図ることとし、「訪日クルーズ旅客を2020年に500万人」という目標が掲げられ、クルーズ振興に取り組んでいますが、大型クルーズ船が寄港できる岸壁やクルーズ旅客の乗降に適した埠頭が限られていたり、寄港が九州を中心に西日本に集中していることなどもあり、やむを得なく寄港を断るという現状もあるようです。

クルーズ船寄港の「お断りゼロ」を目指し、国土交通省では、既存の貨物用岸壁などを活用しつつ、大型クルーズ船に対応した係船柱・防舷材の整備やドルフィン・桟橋などの整備を行い、寄港可能な港湾の多様化を推進しているほか、クルーズ旅客の受入機能の高度化を図るために、2017年4月に移動式ボーディングブリッジの設置などに対する補助制度も創設しており、第1弾として、24港29地区を採択しています。

■訪日クルーズ旅客数500万人の実現に向けて、クルーズ旅客の利便性や安全性の向上及び物流機能の効率化を図るための事業を実施する者(地方公共団体又は民間事業者)に対し、その経費の一部を国が補助する。

また、クルーズ船を専用的に受け入れる岸壁を備えた国際クルーズ拠点の形成が必要になっているため、目標達成に向け施策の一つとして受け入れ拠点の形成を図る港湾を国が指定することになり、2017年7月に「国際旅客船拠点形成港湾」として横浜港、清水港、佐世保港、八代港、本部港、平良港、2018年2月には鹿児島港を指定しました。公共がクルーズ船専用岸壁の整備などを行うとともに、民間が旅客ターミナルビルなどの整備を行うことになりました。

今後、港湾管理者による国際旅客船拠点形成計画の作成やカーニバル・コーポレーション、ロイヤル・カリビアン・クルーズ、ゲンティン香港、郵船クルーズなどクルーズ船社との協定締結、クルーズ船社による旅客ターミナルビル整備などが行われることとなります。鹿児島港では国内初の大型船2隻が同時に接岸できるクルーズ船専用の港となり、2021年度には完成予定で、事業費は未定なものの国が6割、県が3割、市が1割を負担する方向になるといいます。

そして、西日本の地域への寄港が偏っている現状を東日本や日本海側など全国へと広げていくことが必要ですが、国は全国レベルでクルーズ振興や誘致に関わる情報を提供する全国クルーズ活性協議会と連携し、外国のクルーズ船社と港湾管理者などとの商談会を実施するとともに、港湾施設や寄港地周辺の観光情報を一元的に発信するウェブサイトの充実を図っているほか、港湾と観光が一体となってプロモ―ションも展開されています。

◆◆受け入れ態勢の強化や地域連携によりクルーズ振興へ◆◆

さて、2018年7月~9月期の訪日外国人旅行消費額は1兆884億円で、一般客(クルーズ客を除く訪日外国人)は1兆618億円、クルーズ客(船舶観光上陸許可者)は266億円です。訪日外国人1人当たり旅行支出は、一般客が15万5,522円、クルーズ客が3万5,788円でした。クルーズ旅客は前年同期比で11.7%減の74万2千人、1人当たりの旅行支出は3万5,788円で、うち買い物代が3万3,059円を占めています。

各寄港地のオプショナルツアーには多くのクルーズ旅客が参加する一方で、地域によって無料の観光施設、特定の免税店にしか立ち寄らないという滞在パターンが多くなり、商店街など地元への経済効果は限定的になってしまい、旅客の満足度低下及び地域の機会損失が生じている例も見られます。滞在時間が短いクルーズ旅客ですが、「コト消費」が注目されるなか、僅かな時間でも満足させられる体験型観光の開発や提供も必要になってくることでしょう。

寄港地では各分野において「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業」も実施されていますが、インバウンド対応として、Wi-Fiの設置はもとより、サインや案内看板、マップなどの言語対応はもちろんのこと、港湾から市街地などへの二次交通インフラを始め、店舗オペレーションや決済システム、地域産品の開発・消費、情報発信ツール(アプリ)の整備など受け入れ態勢もますます強化していかなければなりません。

また、地域住民の交流や観光振興を通じた地域の活性化に資する「みなと」を核としたまちづくりを促進するため、住民参加による地域振興の取り組みが継続的に行われる施設を国土交通省港湾局が「みなとオアシス」として登録していますが、現在下図のように126ヵ所が登録されています。国内外の観光客との交流、地域活性化に寄与する施設として、その役割は重要といえます。

クルーズ旅客は、食事やショッピングなどの直接的な経済効果だけでなく、関連産業への生産や雇用などの間接効果も生み、地域経済を活性化させますが、旅行者の満足度が高まれば、その地域の評価・知名度を向上させるとともに、リピーター旅客を獲得することにも繋がりますからクルーズ船社と国の連携、取り組みに加え、自治体や民間事業者、地域住民などが連携してクルーズ振興にさらに取り組んでいかなければならないでしょう。

*詳しい表などに関してはリンク先にてご覧いただけます。

出典:グローカルミッションタイムズ

https://www.glocaltimes.jp/column/5381