コロナで見直し必須「インバウンド需要」の今後

観光業はどうやって生き残りを図るべきか

新型コロナウイルスの影響で日本を訪れる外国人観光客の数が減っている。京都も浅草も鎌倉も歌舞伎町も……ここ近年の賑わいをすっかり失い、一部では外国人観光客の大量キャンセルにより廃業を余儀なくされたホテルも出たという。

もとより今回の騒動は、春節で訪れる中国人観光客を拒み切れなかった政府の判断に問題があったとの指摘もあるが、その是非はともかく、これを機にあるべきインバウンドの姿を考えるときにきているのではないだろうか。

「観光」のほとんどは1回限りで十分

そこで、まずは次の表を見ていただきたい。出典は井上岳一著『日本列島回復論――この国で生き続けるために』で、観光庁が日本を訪れた外国人観光客に行ったアンケートの最新結果(2017年調査)から作成したものだ。質問の内容はシンプルに「今回したことと、次回したいこと」である。

日本食、ショッピング、ウィンタースポーツ、アニメ聖地巡礼……など、思いつく限りのアクティビティが並んでいるが、一目瞭然なのが、一般的(というかステレオタイプ的)に考えられている「観光」のほとんどが、「1回限りで十分!」という現実だ。

その顕著な例として日本食・日本酒、自然・景勝地観光、繁華街の街歩き、ショッピングの4項目が見て取れる。もちろん京都、奈良の神社仏閣の来歴や仏像の何たるかを深掘りすれば、いくらでも興味は尽きないが、ツアーバスに乗せられての分刻みの見物では、「It’s so cool!!」「美丽的!(美しい!)」と、ひと声感嘆を漏らせば、それ以上の反応を期待することは難しい。街歩き、ショッピングに関して言えばなおさらだ。図版を示した『日本列島回復論』にもこんな記述がみられる。

「都市は、その存在自体がグローバルに開かれているため、時間を経るに従って、どこの国も、段々と大差がないものになっていきます。ニューヨークとパリと東京はそれぞれ個性的な大都市ですが、その個性の差は、年々少なくなっているように感じます。店も食べ物も人々のファッションも、『その国にしかない』というものがどんどん減ってきています」

そうだろう。ユニクロの海外出店ラッシュはひと昔前のビジネスニュースの一大トピックだったが、裏を返せば、それは世界中のどこでも買えるということ。嵩張るフリースを銀座の一等地で買っても、帰りの荷物が増えるだけのことである。

日本食もまた、程度の違いこそあれど、いまや世界各地に板前が“輸出”され、新鮮さでみれば、実は“現地”(=産地)の方が優れていたりもする。中国人観光客の“爆買い”で急成長したラオックスが縮小傾向にあり、今回のコロナ騒動で、ついに希望退職を募るほど痛手を被ったのもうなずける。

新型コロナウイルスの影響で日本を訪れる外国人観光客の数が減っている。京都も浅草も鎌倉も歌舞伎町も……ここ近年の賑わいをすっかり失い、一部では外国人観光客の大量キャンセルにより廃業を余儀なくされたホテルも出たという。

もとより今回の騒動は、春節で訪れる中国人観光客を拒み切れなかった政府の判断に問題があったとの指摘もあるが、その是非はともかく、これを機にあるべきインバウンドの姿を考えるときにきているのではないだろうか。

◆「観光」のほとんどは1回限りで十分

そこで、まずは次の表を見ていただきたい。出典は井上岳一著『日本列島回復論――この国で生き続けるために』で、観光庁が日本を訪れた外国人観光客に行ったアンケートの最新結果(2017年調査)から作成したものだ。質問の内容はシンプルに「今回したことと、次回したいこと」である。

日本食、ショッピング、ウィンタースポーツ、アニメ聖地巡礼……など、思いつく限りのアクティビティが並んでいるが、一目瞭然なのが、一般的(というかステレオタイプ的)に考えられている「観光」のほとんどが、「1回限りで十分!」という現実だ。

その顕著な例として日本食・日本酒、自然・景勝地観光、繁華街の街歩き、ショッピングの4項目が見て取れる。もちろん京都、奈良の神社仏閣の来歴や仏像の何たるかを深掘りすれば、いくらでも興味は尽きないが、ツアーバスに乗せられての分刻みの見物では、「It’s so cool!!」「美丽的!(美しい!)」と、ひと声感嘆を漏らせば、それ以上の反応を期待することは難しい。街歩き、ショッピングに関して言えばなおさらだ。図版を示した『日本列島回復論』にもこんな記述がみられる。

「都市は、その存在自体がグローバルに開かれているため、時間を経るに従って、どこの国も、段々と大差がないものになっていきます。ニューヨークとパリと東京はそれぞれ個性的な大都市ですが、その個性の差は、年々少なくなっているように感じます。店も食べ物も人々のファッションも、『その国にしかない』というものがどんどん減ってきています」

そうだろう。ユニクロの海外出店ラッシュはひと昔前のビジネスニュースの一大トピックだったが、裏を返せば、それは世界中のどこでも買えるということ。嵩張るフリースを銀座の一等地で買っても、帰りの荷物が増えるだけのことである。

日本食もまた、程度の違いこそあれど、いまや世界各地に板前が“輸出”され、新鮮さでみれば、実は“現地”(=産地)の方が優れていたりもする。中国人観光客の“爆買い”で急成長したラオックスが縮小傾向にあり、今回のコロナ騒動で、ついに希望退職を募るほど痛手を被ったのもうなずける。

◆外国人ニーズをうまく捉えた会社

それら項目が、初体験者こそ少ないものの、確実にリピーターをつかんだうえ、さらなる希望の対象になっていることは、決して見落としてはならない事実である。改めて『日本列島回復論』を見てみよう。筆者の井上氏はこうしたアクティビティを求める外国人と一緒に体験したことを以下のように示している。

「外国人のそういうニーズをうまく捉えて急成長しているのが、在日英国人が経営するWalk Japanという旅行ツアー会社です。Walk Japanは、訪日外国人向けに、日本の田舎を訪ね歩く高額の旅行ツアーを販売していますが、これが大人気です(1週間のツアーで約50万円!)。私は実際にこのツアーに参加したことがありますが、参加していた外国人達に尋ねたところ、東京、京都はもういいから、違う日本が見たくて参加したのだという答えが多く返ってきました。

そして、大分県の国東半島の山水郷で、8世紀の荘園時代からほとんど変わっていないという水田の風景を見た時に、『あぁ、これが見たかったの。このような、他の国では見ることのできない日本の原風景を見るためにこのツアーに参加したのよ』と、カナダ人の若い女性が感慨深く述べていたのが印象的でした」

ちなみに「山水郷」とは本書の中で用いられるキーワードで、自然豊かな日本の里山、中山間地のことを指す。その驚異的なポテンシャルを引き出すことこそが疲弊した日本列島回復のカギになるとしている。

地方在住の人、また地方から都会に出てきた人にとっては、なにをあのド田舎に50万円の価値があるものか、と思われるかもしれないが、前年比105%(2017)、107%(2018)、104%(2019)(矢野経済研究所調べ)と、着実に規模を拡大しつつある国内のアウトドア市場を考えると、決して外国人観光客だけに限った話でないことが、うなずけるかもしれない。気付いていないのは、そこに住んでいる人だけか、もしくは気付いているけど参入できるほど小回りの利かない従来の観光産業か……。

井上氏はWalk Japanに参加して、次のような確信を得たという。

「このときに確信したのは日本の原風景を味わえるような観光が、今後、インバウンド観光の大きな柱になっていくだろうということでした。有名な観光地や名所旧跡を回るような観光のスタイルではなく、その国の原風景や日常に触れられるような観光スタイルを確立することが訪日のリピーターを増やし、安定的な観光収入をもたらしてくれるようになるはずだと思ったのです。

実際、欧州の国々、特にドイツやイタリアや英国などでは、アグリ(農業)ツーリズムやルーラル(田舎)ツーリズムが盛んで、都市から少し足を延ばせば、その国の原風景と呼べる、歴史と伝統のある美しい農山村が広がり、居心地のいいB&B(朝食付きの宿)や農家レストランがあって、滞在したり、食事をしたりできるようになっています。滞在する人たちは、散歩、トレッキング、乗馬、スポーツ、読書など思い思いの時間を過ごし、時にはパブやカフェで村の人々と語り合ったりもしながら、穏やかな休日をたのしみます。

このような観光スタイルが確立されていることが、これらの国々の魅力を奥深いものにしています。ドイツやイタリアを何度訪れても飽きないのは、文化と経済の中心である大都市や有名な観光名所ばかりでなく、歴史と伝統のある個性的な地方都市や農山村を訪ねる旅ができるからです。

だからこそ、日本より狭い国土でありながら、日本よりも多くの観光客が訪れるのでしょう。国連世界観光機関によれば、2017年の外国人観光客はイタリアで約6000万人、ドイツと英国でそれぞれ4000万人です。対する日本の外国人観光客は、2018年にようやく3000万人を超えたところです」

と、海外を引き合いにして日本の、さらにいえば「山水郷」のポテンシャルに期待する。

◆「多様性と奥深さ」を実感できる旅

「山深く、南北に長い日本列島の山水とそこで営まれてきた暮らしは、欧州のそれとは比べものにならないほど多様で奥深いものです。世界でも有数のメガシティ・東京がある一方で、ちょっと足を延ばせば、多様で奥深い山水郷の暮らしがある。単に山水があるだけでなく、そこに人々が生きている営みがあり、土地土地の風土の違いを感じることができる。そういう多様性と奥深さを実感できるような旅のスタイルが確立されれば、日本を訪れるリピーターは増えるでしょうし、日本に魅力を感じる人ももっとずっと多くなるはずです」

『日本列島回復論 この国で生き続けるために』(書影をクリックするとアマゾンのサイトへジャンプします)

そして、具体的数字を挙げて提案する。

「観光産業は、日本で最も伸び代があり、急成長が見込める分野です。観光庁が四半期に1回実施している『訪日外国人消費動向調査』によれば、日本に滞在する外国人は、平均して15万円以上のお金を落としてくれます。ですから1000万人来日すれば、それだけで1.5兆円の外貨が稼げる計算になります。

日本への訪日外国人はようやく3000万人を超えたところですが(数年前は1000万人以下だったことを考えると、これでも大躍進です)、日本と国土のサイズが似たようなイタリアには毎年6000万人の外国人が訪れている事実を踏まえれば、まだまだ成長は期待できます。

仮に、イタリアと同程度の6000万人の外国人観光客が来れば、単純計算で9兆円の観光収入がもたらされることになります。観光収入は輸出としてカウントされますから観光収入の増大は貿易収支の改善に寄与します。経済を成長させ、貿易収支を改善する成長産業を支える観光資源として、山水郷は不可欠の存在なのです」

日本がかつて世界に冠たる「モノづくり」の国であったが、井上氏の指摘する山水郷こそは「モノづくり」を支えたおおもとであった。工業の資(もと)となる水利、木材のみならず、都市生活者の衣食住をまかない、さらには人材も供給してきた。

景気が減速し、かつての花形産業が次々に失われつつある今、山水郷は「観光」という資源を再びこの列島に差し出してくれようとする。『日本列島回復論――この国で生き続けるために』は、こうした日本列島の新たな可能性、見直すべきポテンシャルを指し示している。

出展:東洋経済

https://toyokeizai.net/articles/-/337713