30年以上続くアドベンチャーツーリズム!インバウンド市場での可能性
訪日インバウンド回復期において、有力な旅行形態であると考えられているアドベンチャーツーリズム(以下、AT)。地域の継続的な発展や環境問題と重ねて語られることが多いATですが、今回は、インバウンド市場におけるATの可能性と本質をあらためて考えてみました。
◇◆アドベンチャーツーリズムとは
アドベンチャーツーリズム(以下:AT)の定義は、「自然とのふれあい」、「文化交流」、「アクティビティ」の3つの要素のうち2つ以上が主目的である旅行形態です。この定義は、アドベンチャートラベルの持続的な発展を目標として1990年に設立された団体であるATTA(Adventure Travel Trade Association)が発表しているものです。ATTAは、世界最大のアドベンチャーツーリズム組織で様々なネットワークやソリューションの提供を行っていくことを目的としています。
旅行者目線で見ると、特に欧米で流行しているATについては、単純な「冒険旅行」ではなく、自然を五感で体感することから得られる精神的な満足度、またその旅行を通して自身の価値観の変革が起こることなどが期待されていることからも、アクティブな体験をする中でも精神性を重視していることが伺えます。
また、ATTAとして、ATを好む旅行者が旅行を通じて求める体験価値として、以下の5つのキーワードがあると提唱していることからも、自身の成長をベースとした精神性の変革を求める旅行者がATの旅行者層であることが想定されます。
・他の場所では味わえない、その場所ならではの体験であると感じることができるか?
・自身が成長・変化していくと感じることができるか?
・身体的・心理的にさまざまな意味合いで挑戦できるか?
・旅行前より心身共に健康になったと感じられるか?
・文化や自然に対する悪影響を最低限に抑えられていると感じられるか?
◇◆インバウンドにおける可能性
アフターコロナとなるインバウンド回復期において、AT商品の開発は有効な手段となるでしょうか。
コロナ対策の観点からも、おおいに有効なツーリズムの一つになると思いますが、インバウンドで競合となる国も同じであると考えると、旅行者のニーズを最大限把握した上で、日本の強みを活かしたAT商品を開発する必要があると思います。
先月(2021年6月)観光庁で行った「アドベンチャーツーリズム等の新たなインバウンド層の誘致のための地域の魅力再発見事業」における採択事業が12事業発表されました。
「アドベンチャーツーリズム等の新たなインバウンド層の誘致のための地域の魅力再発見事業」における採択事業の公表https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics05_000362.html
各事業計画の詳細
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001410273.pdf
様々なバリエーションをもった日本各地の事業が採択されており、これから専門家アドバイスなどを交えてさらにブラッシュアップされていくと思いますので、インバウンド回復期に向けて非常に楽しみな取り組みです。詳細は上記サイトからご確認頂ければと思いますが、各事業の中で、特に文化体験の部分についてはマインドフルネス座禅や古民家ステイなどを組み込むなど各地域の強みとなるコンテンツを取り入れながら工夫させている印象である為、インバウンド向けAT商品造成において参考になると思います。
※各事業は、今後実施するモニターツアーや専門家アドバイスを元にブラッシュアップされていくので、事業の内容は変更されていく可能性あり。
インバウンドにおけるAT旅行者のニーズは、大枠としては自然、アクティビティ、文化体験ですが、さらに深いニーズとしては、他の国では味わえないその場所ならではの体験から自身の精神性をより豊かにすることで成長し、心身共に健康になりたい、というニーズがある為、この部分をしっかりと踏まえて、インバウンド向けAT商品の開発やブラッシュアップをしていくことがとても重要であると思います。
◇◆まとめ
アフターコロナにおいて、アドベンチャーツーリズムの可能性は非常に期待できるものであると思います。その反面、表面的な旅行者ニーズのみを捉えて商品造成及び情報発信することにはリスクがあることを認識することも重要です。ATを好む旅行者は比較的裕福でお金に余裕があるというデータもありますが、それについてはあくまでも結果論である為、旅行に対してどのような「価値」を求めている旅行者層であるかを調査し、その結果を各地域のコンテンツとすり合わせて十分に分析することが大切となります。
欧米圏を中心に旅行市場が成熟したところから発生するアドベンチャーツーリズムですが、人の精神性を満足させることのできる、地域の魅力を最大限に活かしたローカル体験こそが、その本質ではないでしょうか。
著者:JOINT ONE 嶋田 拓司