テーマ別観光 ネットワーク化で訪日客を地方へ

温泉など17テーマで自治体の枠超え支援 観光庁
温泉など共通の観光資源を持つ地域をネットワーク化し、地方の観光地への誘客を進めていこうと、観光庁は「テーマ別観光」の事業に力を入れている。特にインバウンドを意識し、外国人観光客の関心の高いテーマを中心に、自治体の枠を超えた横のつながりを強化。メジャーな観光地以外へも客足が伸びるようツーリズムや民間団体を支援する。今年は新たに産業観光や郷土食探訪など4テーマを支援対象に選定、合計17テーマで取り組みを進め、2020年訪日外国人客4000万人達成に向けて拍車をかける。
訪日外国人客が年々増えている中で、旅行形態やニーズは大きく変化している。観光庁の訪日外国人消費動向調査で2012年と17年の5年間の動きを見ると、12年に「観光・レジャー」を目的で来日した人の割合は49.0%だったが、17年は74.9%と大幅に増えた。特に台湾、香港、韓国は8割、中国やタイ、スペイン、オーストラリアでも7割を超えている。
団体ツアー客は39.2%から23.8%に減り、個人旅行パッケージ利用が10.7%、個人手配の旅行者が65.5%を占めた。特に中国からの客は団体ツアーが71.5%から38.2%と半分近くに減った。大人数であらかじめ計画された有名観光地を巡るより、それぞれの個人の好みに応じて日本国内を旅行する外国人が増えていることがうかがえる。
一方、国内でも「百名山」「温泉めぐり」など趣味的なこだわりや世界遺産、日本遺産、酒蔵、社寺観光などに対する個人の旅行者の関心も多様化している。有名な観光スポットだけでは飽き足らず、穴場的な場所に魅力を感じる旅行者も多くなってきた。
観光庁はこれまで主に自治体単位の観光支援を行ってきたが、自治体の観光パンフレットやホームページなどの内容は、その自治体だけにとどまり、境界を越えた情報はほとんどなかった。他の地域に同様の魅力あるスポットがあっても具体的な情報を得るには手間がかかり、なかなか足を延ばせないのが実情だった。
そこで観光庁は、それぞれの旅行者の趣味・趣向にマッチした同じ観光資源を持つ地域のネットワーク化を図り、情報発信力を高めて地方の観光振興を図ろうと、16年度に「テーマ別観光」事業をスタートさせた。同じテーマで取り組む地域連携協議会を設立し、観光客のニーズや満足度を調査するためのアンケートやモニターツアーを実施、より良い旅行商品を作ったり、優良事例についてのマニュアルを作成して共有化を図る。さらに、共同のウェブサイトやパンフレットなどを作成するなどして情報発信を強化、共通課題の解決やネットワーク拡大に向けた取り組みなどを行い、新たな旅行需要の掘り起こしなどを狙った。
今年新たに選定されたのはIndustrial Study Tourism▽ONSEN・ガストロノミーツーリズム▽郷土食探訪~フードツーリズム~▽宙ツーリズム--の4テーマ。
「Industrial」を進める日本観光振興協会によると、海外からのビジネスにつながる視察旅行やMICE(企業の会議、報奨・研修旅行、国際会議、見本市など)を誘致するためにそれぞれの地域の受け入れ実態調査を行い、データーベースの構築に着手する。また、三重県桑名市や北九州市、東京都大田区などで工場見学を中心としたツアーを行い、外国人バイヤーを交えた商談・食事会などのモニターツアーなどを実施し、課題整理をしていく。同協会の産業観光についてはすでに17年の実績があり、「産業まちづくり大賞」を選んだり、約100カ所でワークショップを開くなどしてきたが、これまで日本の消費者向けに行ってきた活動から、インバウンドを意識したビジネスにシフトしていくという。
「ONSEN」は16年10月に設立されたONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構が取り組んできた。地域を歩きながら、その土地ならではの料理を楽しむガストロノミーツーリズムは欧米では普及しているが、日本ではまだなじみが薄い。同推進機構はこれに日本各地の温泉を組み合わせて、入浴するだけでなく、特産の食材を生かした料理を味わおうという取り組みを進めている。認知度アップや誘客のための有効な方法を検討するためのマーケティング調査や、外国人ツアー客による課題の洗い出し、さらにウェブサイトの多言語化も行う予定だ。
同協議会ではこれまでに熊本県・阿蘇内牧温泉をはじめ山口県の長門・俵山温泉、福島県会津若松市、石川県・加賀山中温泉など全国20カ所以上の温泉地でガストロノミーウオーキングを行って来ており、1回のイベントで外国人観光客を含め平均約300人が参加したという。
日本フードツーリズム協会が代表で進める「郷土食探訪~フードツーリズム~」は、千葉県・房総地方の「たこめし」や滋賀県の「鮒ずし」といった地域に根ざした食文化をその地域で楽しむ企画だ。今年はフードツーリズムを先進的に進める地域を認定し、その地域でモニターツアーや実証実験を行う予定にしている。同協会では現在、認定する地域の審査を進めており、今月末には3カ所程度を認定する予定だという。
「宙ツーリズム」については星、宇宙などのツーリズムに対する観光客のニーズや課題の洗い出しのためのマーケティング調査やシンポジウム、PR活動を行い、認知度アップを図るという。
観光庁は16年度に、エコツーリズム▽街道観光▽酒蔵ツーリズム▽社寺観光 巡礼の旅▽明治日本の産業革命遺産▽ロケツーリズム--の6テーマ、17年度にアニメツーリズム▽古民家等の歴史的資源▽サイクルツーリズム▽全国ご当地マラソン▽日本巡礼文化発祥の道▽忍者ツーリズム▽百年料亭--の7テーマを選定しており、それぞれの協議会は、観光客誘致のために基礎調査やマニュアル作り、PR活動などを行ってきた。
中でも映画やドラマのロケ地を訪ねるロケツーリズムは、観光庁が順調に進んでいるツーリズムの例として挙げている。著作権の問題などをクリアにし、受け入れ地と観光を結びつけるためのマニュアルを作成したほか、日本語や英語、中国語など5カ国語の全国ロケ地マップを作った。また、海外に向けてロケツーリズムのPRなども行うという。
出典:毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180704/org/00m/010/037000c