香港で日本の「卵かけご飯」にハマる人急増の理由、鶏卵輸出の9割は香港向け

日本人にとって定番の「卵かけご飯」や「納豆ご飯」が、コロナ禍の今、香港で「免疫力を上げる!」「栄養もあって美味しい!」と評判になっている。数年前なら、訪日旅行の際、すき焼きについてくる生卵を「気持ち悪い」と敬遠していた人が多かったが、なぜ、彼らは生卵や納豆にハマるようになったのだろうか?(ジャーナリスト 中島 恵)

「卵かけご飯」の写真をSNSにアップする香港の女性
「卵自体は以前から好きでした。オムレツも食べますし、中国料理にも卵を使った料理は多いですから。でも、香港のスーパーで、たまたま店員から『生でも食べられますよ。日本では、ご飯にかけて醤油をたらして食べるんです』と声をかけられて、びっくり。日本からの輸入卵で恐る恐る食べてみたら、おいしかったので、ハマってしまいました」

SNSによく料理を載せている香港の知人女性が「今朝のご飯」として、卵かけご飯と納豆の写真を載せていたので聞いてみると、こんな返事が返ってきた。この女性は何度も日本に遊びにきたことがある“日本通”だが、これまで日本に「卵かけご飯」という食べ物があることは「全く知らなかった」という。

 ところが、昨年、自宅付近にできた日系スーパーの『ドンドンドンキ』に行ってみて初めて「卵が生で食べられる」ことを知り、日本産の卵パック(6個入り)を購入。以前から食べていた納豆とともに、今では週に1~2回、食べているそうだ。

鶏卵の輸出は2倍増 輸出先の9割がなぜか香港
日本でも2月5日に報道があったので記憶にある読者も多いと思うが、日本の農林水産省が発表した2020年の農林水産物・食品の輸出は前年比1.1%増と好調で、中でも鶏卵など家庭向け農産物の輸出は、8年連続で過去最高となったことが明らかになった。

 輸出が増えたものといえば、コメ(前年比15%増)、いちご(同24.8%増)、豚肉(同55%増)、緑茶(同10.6%増)などがあるが、鶏卵だけは、なんと2倍にまで輸出が増えている。輸出先の9割を占めるのは、なぜか香港だ(第2位は中国)。報道によると「コロナ禍で内食需要が増えたこと」が要因だとされているが、ここまで「日本産の鶏卵」が受け入れられているということに驚かされる。

農水省のサイトによると、現在、鶏卵の輸出ができる国・地域は香港やシンガポールなどに限られており、世界各国に輸出されているわけではないが、コロナ禍で日本の外食需要が減少している現在、香港への輸出がここまで伸びていることは、日本の生産者にとって一筋の光明といえそうだ。

 それにしても、なぜ香港なのか?

香港社会には日本の文化が深く浸透
前述の女性は「あくまでも予測ですが……」と前置きしつつ、こう語る。

「日本人が想像している以上に、香港社会には日本の文化が深く浸透しています。日本人がカルチャースクールやオンラインで気軽に英語を学ぶように、香港でも専門学校などで日本語を学ぶ人はとても多いですし、お店の広告とか、お菓子のパッケージなど、町の至るところで日本語の表示をよく見かけます。新型コロナの感染が拡大する以前は、1年に5回も6回も日本旅行に行くという友人も多かった。

 もちろん、日本食が大好きな人も多いのですが、香港では今、新型コロナにより午後6時以降の店内飲食は禁止となっているので、夕食は家で食べるか、お弁当、デリバリーなどしかないんです。家でも気軽に食べられる気軽な日本食ということと、栄養価が高く、安い上に健康によいこと、日本産の食品は安心安全であること、などの理由で、卵や納豆の人気が高まっているんじゃないでしょうか?」

 確かに、観光庁のデータを見ても、香港からの訪日観光客は非常に多い。

新型コロナの感染が拡大する以前の2019年には約229万人と国・地域別で、堂々の第4位だった。中国が第1位(約959万人)で、韓国(約558万人)、台湾(約489万人)が続くのだが、香港の人口はわずか750万人ほどしかない。同じ東アジア圏で距離的にも文化的にも近いとはいえ、人口で見れば、韓国(約5200万人)や台湾(約2300万人)よりもずっと少ない。香港からは年間で、3~4人に1人が訪日していたという計算になる。

 日本では、中国パワーに圧倒されて、香港でここまで日本人気が高いことは案外知られていないと思うが、確かに、香港の町を歩いていると、日本食やサブカルチャーなど、日本文化の人気は高い。

 香港の飲食サイト「openrice」を見ても、日本食レストランは2500軒以上もあり、地元の広東料理店を除くと、ダントツの多さだ。気軽なラーメン店やおにぎり専門店、居酒屋、高級懐石料理まで、一口に日本食といってもさまざまなジャンルがあり、中には「卵料理専門店」まである。

中国料理にはない見た目の美しさ
それは『Tamago-En』(たまご園)という店で、香港内に5店舗を数える。沖縄県産の卵を使用しており、メニューには「卵かけご飯」(39香港ドル=約526円)や親子丼(78香港ドル=約1050円)などがある。

 もっとも、「卵かけご飯」は日本とまったく同じではない。白身をメレンゲにしたオシャレな料理で、日本人がイメージするモノとは少し異なるが、地元の若い女性客などの間では「インスタ映えする」「日本に行った気分を味わえる」と評判になっているという。前述の女性も同店に行ったことがあり「中国料理にはない、見た目の美しさもあって、味もおいしかった」と話していた。

 とはいえ、やはり火を通して食べる通常の中華料理とは違う。“生食”に対する抵抗はないのだろうか?

 もう一人、「以前はよく日本に夫婦で遊びにきていた」という40代の香港人女性に聞いてみたところ、「香港では日本料理店が多いので、サーモンなどの刺身が大好きという人も多いのですが、さすがにドロッとする生卵は……と思っていました。でも、数年前、日本ですき焼きを食べたときに、初めて生卵の美味しさを知り、それからはすっかり抵抗がなくなりました」という。

 この夫婦は日本各地の温泉旅館にも行ったことがあり、「温泉旅館の朝食には、生卵がついてきますよね。朝食のお膳で、初めて卵がついてきたのを見たときには、ゆで卵だと思って割ろうとしてしまったのですが、生だったのでびっくりしました。最初のうちは食べられなかったのですが、すき焼きで生卵に慣れてからは、旅館の朝食でも食べられるようになりました。納豆も同じく、日本の旅館の朝食で初めて食べて、以来ハマり、今ではスーパーでよく買っています」と話す。

卵かけご飯にする卵は日本産と決めている
香港や広東省には火鍋料理があるが、火鍋の薬味の一つにも「生卵」はあり、香菜(シャンツァイ)などとともにタレに入れる場合もある。そうしたこともあり、だんだんと生卵を食べる習慣ができていったようだ。

 この女性は「ふだんの炒め物に使う卵は安い中国産、卵かけご飯にする卵は、ちょっと高いけど、安全な日本産、と決めている」と話していた。

むろん、新型コロナの影響もあるだろう。香港では昨年末から「第4波」がきており、一時は1日100人以上の感染者が出て、ロックダウンされた地区もあった。現在、感染者は減少傾向にあるが、外食制限やスポーツジムなど一部施設の利用制限は続いており、人々の健康意識は高まっている。

 2003年にSARSの感染が拡大したとき、香港では「ヤクルト」を飲む人が急速に増えたことがあったが、コロナ禍が長引くにつれ、免疫力を高める食事を心がけている人が多い。そのことも、卵かけご飯や納豆ご飯にハマる人が多い理由かもしれない。

出典:ダイヤモンドオンライン

https://diamond.jp/articles/-/263126