どうなる?温泉 × アフターコロナのインバウンド観光
インバウンド観光で、日本で人気のある体験として上位にあげられるコンテンツと言えば、“温泉”です。日本には3,000近く温泉施設があり様々な効能や源泉の質が豊富な温泉大国。一度や二度では日本の温泉は語りつくせないほど奥が深いことから、コロナ前は特にリピーターに多かった体験であり、訪日外国人が高い割合で満足した体験でもあります。インバウンドが盛り上がるにつれ、温泉体験に際しての課題がありましたが、今後のアフターコロナ(またはコロナ禍)での入浴についてはどのように変化していくのでしょうか。
参考:訪日外国人の消費動向 2019年次報告書https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001345781.pdf
◇◆コロナ前温泉が抱えていた課題
1.刺青・タトゥーがある訪日外国人への対応
訪日外国人の中にはタトゥーのある方も存在し、ファッション性が高い為、日本人の持つイメージや感覚とは異なる。
その為、日本人も利用する温泉ではこの感覚の違いをネガティブにとらえてしまう事も多くあるため、“刺青・タトゥーのある方は入浴できません“という案内表示が多く見られる。
刺青・タトゥーがあっても温泉に入れるようにそれらを多い隠すシールなどの提供を行い
温泉を楽しんでもらっている施設もあるが、まだ数は少ないと言えます。
2.裸での入浴への抵抗
日本人は昔から裸で温泉に入ることがある一定の常識のようなところがありますが、外国人からすれば、裸での入浴に抵抗を持つ訪日客も少なくはないです。
勿論、日本に慣れている外国人の方は日本人と同様に裸で入浴をすることにさほど抵抗が無い方もいますが、特に、中国では他の人に裸を見られることは魂を奪われるなどの思想や、性的な観点から抵抗があるということもあります。
その為、現在でも水着を着用し、家族やカップルで景色などを楽しみながら温泉に入浴するということが多数派のようです。
実際、中国の検索サイト百度でも「温泉」と画像検索すると水着を着用し温泉を楽しんでいる画像が多く表示されます。
また、欧米圏の温泉施設でも水着を着用し混浴するタイプが多く、日本人からするとテーマパーク的な要素を感じ取れるものが多くありますが、主に医療や療養目的に利用する方も多くいます。そのため、ヨーロッパの一部では温泉が保険適用になる場所もあります。
日本でも『湯治』という言葉がありますが、そういったところでは共通する部分もあるかもしれませんが、裸で入浴という点とタトゥーにおいては異なることから、日本の“温泉”は世界的にも特殊なのかもしれません。
◇◆違いはチャンス
世界的に見ても、日本の“温泉”には明らかに違いがあることから、その部分を魅力として捉え発信することも可能かと思います。
また、共通点として発信することができる療養目的の『湯治』においては暮らすように観光を楽しみながら日本の伝統である“温泉”を楽しんでもらう事ができるため十分なポテンシャルがあると考えられます。
筆者が以前、ヨーロッパ圏の方々と『湯治』の取材に同行した際、実際に温泉に入浴していただき、それぞれの湯治場の伝統や歴史、源泉の質や効能などを取材しながら数か所の湯治施設を周りました。その時は、長期間の滞在はしませんでしたが、外国で言うコンドミニアムのような宿泊施設に長期間滞在しながら温泉に浸かり治療を促し、他の滞在者の方々とコミュニケーションを楽しんだりすることが可能な温泉施設が日本に多く点在することを知った彼らは大変興味を抱いていました。
外国との違いと共通点が同時に共存するからこそ“これぞ日本の温泉”という魅力があると言えます。
◇◆アフター/ウィズコロナでの温泉への集客
外国人にとって魅力が多い日本の温泉。実際は、温泉入浴の体験に訪れた外国人もその土地にちなんだ食や伝統芸などを体験すると思います。そのため、温泉と観光は切り離さずに包括して考え発信することが重要と考えられます。
日本は裸で入浴するという外国とは違った慣習が存在するので、コロナという世界的なパンデミックの後では、やはり難しさを感じる外国人も少なくはないと思います。
その為にコロナ禍においての温泉利用状況や脱衣所などにおける感染対策、利用時の注意点などに関してなど今まで以上に注意を払い安心・安全であること、そして、利用者にとってプラスになるポイントがある際は積極的に発信しアフターコロナの訪日インバウンドに関して温泉地も賑わいをスムースにとり戻せるようにする必要があります。
また、国籍だけではなく、年齢層や嗜好などのペルソナなどをしっかりと設定し、アフター/ウィズコロナで日本人と外国人が同じ温泉に入浴することに対して発生するかもしれない課題についても考慮しておく必要があるかと思います。
◇◆まとめ
日本各地の“温泉”には様々な動物に関係した伝説などもあり、信仰などとの関りもあると言われています。
様々な多様性に応じることも勿論必要ですし、促進していかなくてはならない課題が日本には山ほどありますが、伝統や慣習においては日本人としての誇りでもあるため、基本的には変化させずに貫くことも、一定の部分では必要なのではと思います。
また、外国との違いを明らかにすることで日本の温泉という、独自の観光資源を際立たせることができるはずです。
古くから日本には「郷に入っては郷に従え」という言葉がありますが、これは訪問者に対して厳しく命じていることを指すのではなく、「郷に従うことでその地域の本来の良さを心身で感じることができるよ」という、ある意味おもてなしの言葉なのかもしれません。
ライター:カイトマウリ(JOINT ONE)